「ふつつかな悪女ではございますが」の作者、中村颯希先生の爆笑異世界腐女子ストーリーです。
ヒロインは、貧しくはないが領民も娘も顧みないロクデナシ貴族、ラングハイム伯爵の一人娘ローザ。
その美貌と父親に代わって領地を管理する健気さ、領民に尽くす慈愛の心を受け、領民からは「ラングハイムの天使」として一心に慕われています。
母親は亡くなり、父親に放置されているせいで社交界デビューをして良縁を得ることもできず、父親が極度に女性好きなため周囲に女性の世話係もおけないという最悪な環境のもと、密かに領民から守られつつかろうじて領地では安全に暮らしていける状態。
しかし周囲から同情と崇拝を受ける彼女自身は、実はその逆境を苦にしていませんでした。むしろ都合が良いと思っていたのです。
なぜなら彼女は根っからの「腐女子」だったから。
男性はすべからく彼女の「腐ィルター」にかけられ妄想の対象となり、日々の生きる糧となっていたのです…
<読み進む前に>
- 一部ネタバレあり。
- あらすじは筆者が作成したものです。
- 感想・おススメ度はあくまで筆者の個人的な印象に基づいています。
おススメ度
評価 :★★★★★(かなりお気に入り)
恋愛度:なし(ハレム状態ではありますが)
ぶっとび度:★★★★★
あらすじと感想
※超ネタバレあり!ご注意ください!
あらすじ
一人娘を領地に放置しているうえ領地に害悪しかもたらさない父親を持つローザは、果敢に父親をいさめたり、農地に魔力で腐葉土を作ったり、領民に読み書きを教えたりする姿から清らかな天使と思われていた。
しかしそれらはすべてローザが目的があって行っていることであり、知らぬうちに広がった誤解が招く誤った印象であった。
ローザは物心ついた時にはすでに物語から妄想を巡らせる習慣に染まっており、いつしか「腐ィルター」を通して現実のすべての事柄を男性同士の恋愛に導いてしまう力を備えていたのだ。
男性同士の恋愛は彼女にとって「美しい薔薇」。
父の書斎から密かに春書を持ち出してまでその概念や定義を研究し、いつか世界中にこの薔薇の園を広げようともくろんでいた。
そのためには領地に引きこもり社交界なぞ出ない方が都合が良かったのだ。自分が放置されている状況を利用していたにすぎない。
しかし引きこもるだけでは布教ができない。
彼女はこの「薔薇教」を広めたいのだ。
そのためには自分という人間を周囲に認めてもらうことも重要だ。
ローザはそのための自己研鑽に励み、どの角度から見ても瑕疵が見えないように努力した。
いつしか彼女の繊細ではかなげな外見は一目で心を奪うほどの美貌となり、天使という二つ名も当然のこととなった。
善行と誤解されていたが、布教の土台を作るための領民の識字率向上、布教のため修道院に入り個室をもらう目論みで寄付も行っていた。
順調に腐道を極めつつあったローザだが、ここ最近は「受け」となる人材の不足を嘆いていた。
この領地はどうしても「攻め」人材が多いのだ。
これではいつまでたってもカップルのめくるめく愛の模様を陰から見守ることができないではないか。
行き詰まっていた彼女の前に、とうに見放していた父親が隠し子を連れて領地へ戻ってきた。
完璧な「受け」属性を持つ少年を…
登場人物
ヒロイン:ローザ・フォン・ラングハイム(14歳、伯爵家の一人娘)
ヒーロー:特になし(だよね?)
その他(登場順):ベルナルド(義弟、下町育ちの13歳)、レオン(金の瞳を持つ王子、魔力覚醒まで属国で育つ)、カミル(レオンの従者)、クリスティーネ(ちょっとこじらせた「ぷんデレ」王女)、ラドゥ(アプト族の癒術師)、ドロテア(不遇な王妃)、アントン(ローザの百合叔父)
感想(ネタバレあり)
いきなり目次に「この物語は腐ィクションです」と※が入っている(笑)
中村先生が意図的に大いなる勘違いシチュエーションを作り出してぶっとんだ面白さを生んだお話です。
かなり作為的なお約束展開であるにもかかわらず、中村先生の手に掛かると「それこそがこの作品の面白さ!」になってしまう。さすがですね!
主人公ローザの腐眼は尋常でなく、他人の行動をわざわざ腐方向に解釈しますし、もちろん相手も彼女の行動を(誤って)善意に解釈しまくります。
でもその結果生じることがすべて、ローザが「真実を見通す眼」を持ち、「自己を犠牲にして他者に尽くしている」ようにしか見えないのだからどうしようもない。
王女クリスには、単に作家候補を確保したかっただけの行動だったが「自分を庇ってくれた、受け入れてくれた」と思われる。
王子レオンの金の瞳の誘惑を妄想にまみれた腐眼ではじき返すと、真の姿を見抜いたと思われる。
王妃のお茶会では単に男性が愛を語る場面を妄想していただけなのに、企みを看破したと思われる。
誰かがローザの真実を語ったところで誰にも信じてもらえない…
笑える場面が多い一方、シリアスな部分もあります。
ローザは自己評価が低いため、関わる人間が自分のとりこになってしまっていることに全く気付きません。
自分には何の価値もないけれど、義弟のことはいくら褒めても褒め足りないと思っている。
彼女は腹違いの弟が「受け」属性を持っていると勝手に解釈して溺愛し、彼の環境から来る腹黒さなどもすべて愛すべき部分だと思っています。
しかし義弟ベルナルドはやがて腹黒美少年から「姉様を守りたい」系キャラになっていきます。
それは王族も然り。当初は裏事情を疑い、「そんな善人が存在するはずがない」と「天使」と呼ばれるローザを試します。
しかしそれがすべて良い方に裏切られ、有能でたぐいまれな美貌を持ちながらも、謙虚で他のために尽くす彼女を誰もが愛するように。
領民も義弟も王族も叔父も、みんなローザに幸せになってほしいと思っているのですが、ローザの幸せとはどこにあるのか…?
ローザは自分の幸せは「推し」が幸せになることと、世界中の人間が「薔薇」を愛でるようになることだと思っている。
それは本当なのでしょうか。
「百合豚」と呼ばれ一族から追放された叔父アントンだけは、彼女の真実を知っているようなのですが…
目次へ
小説各巻の情報
小説は2巻までで完結しています。
小説第1巻
わるつさんの素敵な口絵が複数枚。登場人物紹介を兼ねているようです。
内容は、領民の大いなる誤解~ローザの秘密 まで。
王族の思い込みは、ベルナルドによる「ローザが父親から虐待に遭っていた」というこれまたトンデモな勘違いを打ち明けられて補強されていく。ややこしい。
小説第2巻
完結巻。表紙はわるつさんですが、口絵や挿絵は西村和笑さんに変更になったようです。
百合神父アントンの優雅な生活 の描写から始まります。
アントンは自分が百合嗜好であるため、ローザの薔薇嗜好に気付きますが、もちろん嗜好は相容れません。
でも彼女の思考回路を推測することができるのはアントンだけなんですよねえ…
コミカライズ版
コミカライズ版は2024/2現在、2巻まで出版されています。
作画は紫 ののさん。ローザ(心の中)は表情豊か、男性陣は美形。素敵です!
コミック第1巻
内容は、領民の大いなる誤解~レオンとカミル まで。
中村颯希先生の書き下ろし小説: 「ローザは「推し」に食べさせたい」(ベルナルドが一人いれば世界は平和になるわ)
コミック第2巻
内容は、王宮勤めの始まり~めくるめくBLハーレムの始まり? まで。
書き下ろし小説はありません。
第3巻は、2024年冬発売予定だそうです。まだまだですねー でも楽しみ。
中村颯希先生の他作品
「ふつつかな悪女でございますが」
こちらでレビューしています! よろしければぜひ!
「神様の定食屋」
こちらはオーディオブックも出ている人気作品。4巻まで出版されています。
雰囲気は違うけど、とてもいいお話です。電子書籍なら、今1・2巻が半額などの割り引きで買えるみたいです!