シリーズもの「ワーシントン・シリーズ」第二作。
シャーロットの幼なじみ、美人でしっかり者で思いやり深いドッティに一目惚れしてしまった、孤独と愛に苦しむ、マートン侯爵ドミニクの成長物語。(ロマンスともいう)
一作目「一夜かぎりの花嫁」の感想はこちら。
この時代の貴族社会のしきたりも調べて載せてみました。簡単にしてありますが長いです(^^;
<読み進む前に>
- 一部ネタバレあり。
- あらすじは筆者が作成したものです。
- 感想・おススメ度はあくまで筆者の個人的な印象に基づいています。
おススメ度
評価 :★★★★★+(すごーくお気に入り!)
ホット度:エラ・クインにしては少ないかも ?!(ヒーローの妄想は多い)
あらすじと感想
※超ネタバレあり!ご注意ください!
あらすじ
ドッティ(ドロシア)は、母の骨折で、楽しみにしていた初めてのシーズンが中止になったことに落胆していた。
そんなとき、幼なじみシャーロットの姉で、今はワーシントン伯爵夫人になったグレースから、社交シーズンへの招待の手紙が届く。
なんと彼女が母の代わりに付き添いになってくれるうえ、自分たちのロンドンの屋敷に滞在するよう申し出てくれたのだ。
有頂天になるドッティ。
両親に「グレースたちの家に、保護した動物を連れ込まない」ことを約束して、ロンドンへ向かう。
そして順調に始まった彼女の初めてのシーズンは、思いもかけぬ形で中断されることに…
堅物でおもしろみがなく、侯爵という地位を過剰に意識しているマートン侯爵、ドミニク。
跡継ぎのために、「侯爵である自分にふさわしい」花嫁を物色中だったが、
散歩中に出会ったドッティに強く惹かれ、ほかの女性が目に入らなくなってしまう。
実は彼は本来、ひとりの女性だけを情熱的に愛する性格で、便宜結婚など到底不可能な人間だった。
本来は人間らしい強さと弱さ、温かさを持った魅力的な人柄であり、今おもてに出している姿は、すべて伯父に洗脳された結果だった。
そしてそんなドミニクの表面上の信念は、悲惨な境遇にある動物や人をなんとしても救おうとする、ドッティの強固な信念とぶつかり、次第に崩れてゆく。
ドミニクは、愛と救済の対象となった彼を辛抱強く見守ってくれるドッティを突き放さずに、本来の自分を取り戻して、愛のある結婚を手にすることができるのか?
登場人物
ヒロイン:ドロシア(ドッティ/ シーア)・スターン(準男爵の娘、18歳。黒髪の美人で、シャーロットとは幼なじみ)
ヒーロー:ドミニク・ブラッドフォード(マートン侯爵、28歳。父親を幼いころに事故で亡くし、母方の伯父に教育された。マットの親戚)
その他 :アラスデア卿(故人。マットの伯父、ユーニスの兄)、フォザビー子爵(マットの友人)、エリザベス・ターリー(夫探し中の令嬢)、ラヴィニア(ラヴィ―)(マナーズ子爵夫人、エリザベスのいとこで付添を務める)、トム(身元不明の少年、ドッティの救済の対象)
ブラッドフォード家の面々
ユーニス(先代マートン侯爵夫人。ドミニクの母でカーペンター家の親戚)
デイヴィッド(先代マートン侯爵、故人。ドミニクの父でワーシントン家の親戚)
スターン家の面々
ヘンリー(準男爵。ドッティの父、古典学者)
コーディリア(ドッティの母、結婚前はレディ・コーディリアだった)
ハリー(長男、ドッティの兄。オックスフォード大学在学中)
スティーブン(次男、ドッティの弟。ラグビー校在学中)
ヘンリエッタ(ヘニー)(次女、15歳)
マーサ(三女で末子、6歳)
カーペンター家の面々
グレース(長女、25歳。現ワーシントン伯爵夫人)
シャーロット(次女、18歳。ヒロインとは幼なじみ)
チャーリー(長男、16歳。現スタンウッド伯爵)
ウォルター(次男、14歳)
アリス+エレノア(三女と四女の双子、12歳)
フィリップ(三男、8歳)
メアリー(五女で末子、5歳)
ヴァイヴァーズ家の面々
マット(マシューズ)(現ワーシントン伯爵、30歳くらい)
ペイシェンス(先代ワーシントン伯爵夫人、35歳くらい)
ルイーザ(長女、18歳)
オーガスタ(次女、15歳)
マデリン(三女、12歳)
テオドラ(四女で末子、8歳)
感想
第一作「一夜かぎりの花嫁」同様、最初から最後までおもしろく読めました!
(なお、知っておくともっと解像度が高くなる、この時代の貴族社会のしきたりについて、
ポイントだけを こちら に載せました)
第二作目は、「一夜かぎりの花嫁」から、1週間~2週間後が舞台(一部重なる)。
グレースから「(社交)シーズン」への招待が届いたところから始まります。
ヒロインは当初の予定通り社交界デビューができることになり大喜び。
最終目的は夫を見つけることとはいえ、大人への第一歩となる「デビュー」は心躍るイベントです。
第一作ではあまりわかりせんでしたが、ドッティは、美人で豊かな曲線を備えた、魅力たっぷりのデビュタント。
しかしながら、自分の考えを持ち、物おじしないしっかりした性格のうえ、
恵まれない動物や人間を見ると助けずにはいられないという、徹底した奉仕精神の持ち主だったのです!
一目惚れしてしまったドミニクは、積極的にアプローチはするものの、身分が釣り合わないことを悩みます。
頭の中には常に伯父の洗脳ワードが鳴り響き、「侯爵にふさわしい」行動をするよう促すのです。
彼が苦しみ、悩む姿は本当にかわいそうです。
いくら事情があったとはいえ、ここまで放置した母親ってどうなの?とつい思いたくなります。
まあ、この頃の貴族社会では、母親が息子と会うのは、長くても1日1時間くらいとかだったのかもしれませんが。
(母親は、成長した息子を見てやっといろいろ悩むように。特に、ドミニクが愛人にまで堅苦しい服装をさせているのを見たりして(^^; )
孤独なドミニクが、猫のシリルや少年トムを膝にのせて触れ合うシーンでは、ちょっとウルウルしちゃいます…
しかし救いの女神はちゃんといました!
ありがたいことに、ドッティは第一作のグレース同様、長女気質(兄はいるけど)。
彼女にしてみれば、ドミニクも救済の対象です。
本来の自分を取り戻せそうで取り戻せないヒーローを、もどかしく思いながらも、大きな心で見守ってくれて、
ヒーローが判断を迷うひまがないほど、次々と事件に巻き込んでくれるのでした!
基本情報
自分の情報整理のための覚書ですが、お役に立てば幸いです。
原題・出版年等
原題:When a Marquis Choose a Bride
著者:エラ・クイン Ella Quinn
訳者:高橋佳奈子
初版:2016年(日本2020年)
舞台:英国、ロンドン
(覚書)
購入形態:電子書籍
購入サイト:Amazon.co.jp
関連作品(ワーシントン家シリーズ)
「 一夜かぎりの花嫁 (ラズベリーブックス) 」:グレースのお話
「 堅物侯爵の理想の花嫁 (ラズベリーブックス ク 6-2) 」:本書
「求婚されなかった花嫁 (ラズベリーブックス) 」:ルイーザのお話
「 The Marquis and I (The Worthingtons Book 4) (English Edition) 」:シャーロットのお話
「 You Never Forget Your First Earl (The Worthingtons Book 5) (English Edition) 」:エリザべス・ターリーのお話
「 Believe in Me: A Humorous Historical Regency Romance (The Worthingtons Book 6) (English Edition) 」:オーガスタのお話
「 The Second Time Around (The Worthingtons) (English Edition) 」:ペイシェンスのお話
「 I'll Always Love You (The Worthingtons) (English Edition) 」:ルシンダのお話
リージェンシー時代・英国の貴族文化(抜粋)
リージェンシー・ロマンスを読むには、少しだけその時代の知識がないと、楽しめないかもしれません。
とりあえず、必要と思われることのみピックアップしました。もう少し詳しい内容は「一夜かぎりの花嫁」をご覧ください。
なお、貴族に関する法律は近年になって頻繁に変更や制定がされているので、あくまでこの時代のこと、と考えてください。
いったん目次に戻って、読みたいところを探すかたはこちら ⇒ 目次に戻る
リージェンシー時代と呼ばれる期間
一般的には、精神に異常をきたしていたジョージ三世に代わって、
皇太子が摂政(リージェント)になった年 ⇒ ジョージ四世に即位 ⇒ 死去
の治世を表していることが多い。(1811-1830年)
時代背景
途方もなく贅沢でファッションを愛し女性大好き、という皇太子のおかげで、
貴族社会では放蕩、贅沢、堕落、自由奔放、快楽主義がまかり通っていた。
その一方で、退役軍人や貧困層への補償も対策もないまま、庶民の暮らしは悪化の一途をたどり、社会階層の差は大きくなっていた。
…なんだか暗い感じですが、でもこのあとのヴィクトリア時代よりは堅苦しくなく、自由な空気だったらしい。
爵位は領地とセット
現在もそうですが、爵位は領地とセット(例外ありだが少ない)。
つまり、マートン侯爵という名称は、マートンという土地の領主であることを表しています。
爵位は世襲ではありますが、結婚によって権利を得たりすることも。
1人の貴族が複数の爵位を持っていることも珍しくありません。
一方、ヒロインの父親は準男爵で、旧家ということですから、長い間その土地のいわば荘園主ではありますが、貴族ではない。
でも準男爵は世襲なので、将来的には兄ハリーが、家と土地とを継ぐことになります。
この領地ですが、爵位にかかわらず、たいてい恐ろしく広くて、一つの町全体が領地と考えて差し支えないと思います。
爵位のランクと呼び名
爵位の順番は、公侯伯子男(こうこうはくしだん)。この時代、貴族は自動的に貴族院議員になりました。
● 公爵 ● 侯爵 ● 伯爵 ● 子爵 ● 男爵
------------- ここまで貴族 -------------
● 準男爵: 世襲だが貴族院議員にはなれない。でも広大な土地を持ち、貴族より裕福であることがしばしば。
● ナイト: 一代限りだが貴族院議員になれる。
※近年では、一代貴族は男爵の称号をもらうことが多いようです。
それで昔からの男爵家が怒っているとかいないとか。
さて、順番はこんな感じです。
称号がものすごくややこしい。それを聞いただけでランクの想像ができるくらいらしいです。
ウィキによく整理されたものがあるので載せておきます。
また、現在は東大の教授をされている、新井潤美さんのエッセイが非常に詳しいので、ぜひ読んでみてください。
エッセイはこちら
新井さんの書籍は、ちょっと古いけどこちらです。テーマは階級社会と言葉遣い。
口から出る単語ひとつとっても、階級(クラス)によって異なるので、出身がすぐわかるそうです。
爵位は長男のみ相続
この時代の英国では、爵位の相続権があるのは嫡出の長男のみ。
爵位と、爵位に紐づいた家や領地、財産のすべてを相続します。
嫡出の女子、非嫡出の子供には、相続権がありません。
※爵位が限嗣相続となっていない場合は、娘にも相続権があります。
嫡出子でも次男坊以下(ヤンガー・サン)は、長男が未婚または跡継ぎを残さずに亡くなった場合しか、爵位の相続ができません。
領地を分けてもらうこともできない。財産が分割されて分散していくことを防ぐ仕組みらしいです。
彼らはたいてい、聖職者・軍人・法廷弁護士などになります。
といっても、法廷弁護士はかなりハードルが高かったらしい(今でも)し、聖職者もイヤ!という息子は多いでしょう。
でも軍人ならば、お金で買うことができました。
なので、リージェンシー・ロマンスには、次男以下がヒーローになる場合は、「兄が突然亡くなって軍隊から呼び戻された」というシチュエーションが多いのです(^^;) 。
娘の将来は保障がない
貴族の娘たちが職業を持ち独立することは恥ずかしいこととみなされていたので、彼女たちは自立することができませんでした。
よって、父親の死後、跡継ぎがいない(娘しかいない)場合は、その家に住むことができなくなります。
身を寄せる親族がいない場合は、たいてい家庭教師(ガヴァネス)の口か、コンパニオン(貴婦人の話し相手)の口を探すことになります。
だからそんなことになる前に、両親は持参金を持たせて、なんとかして金持ちの貴族の息子と結婚させようとします。
社交界へのデビューは、主としてそのための夫探しの場となります。
リージェンシー時代のしきたり
リージェンシー・ロマンスのかっこうのネタにされる、貴族社会のしきたり。
貴族の未婚の若い女性には、たいそうめんどくさいルールがありました。
とにかく、望ましい結婚をするためには、「ふしだら」「不適切」「常識がない」等々という悪評を立てられないため、細心の注意を払わなくてはならなかったのです。
こんな感じです:
- 常に落ち着いて、優雅にふるまうこと
- にこやかでいるべきだが、大声で笑うのはご法度
- 婚約者以外の男性と二人きりにならないこと
- 同じ男性とダンスするのは2曲まで
- 女性が男性を訪問するときは、決して一人で行ってはならない
- 早朝に教会へ向かう時以外は、一人で出歩いてはならない。必ず他の女性、適切な男性あるいは召使いを伴うこと
- 社交行事に出席する際は、必ず付き添いを同伴すること
同様に、駆け落ちは一族の不名誉とみなされ、本人以外の兄弟姉妹の結婚にも影響を及ぼしました。
※グレトナ・グリーンは駆け落ち結婚で有名な場所です。ウィキペディアに詳しい情報があります。
リージェンシー時代の貴族の住まい
裕福な貴族は、田舎の広大な土地にあるカントリー・ハウスのほかに、ロンドンにタウン・ハウスを持っていました。
「田舎の別宅」ではなく、「都会の別宅」です。
本作では「マートン・ハウスを開ける」と言っていますよね。
「開ける」というのは、使っていなかった都会の別宅を住めるように復活させることで、臨時の召使いを雇い入れたり、パーティを開催できるようにすみずみまで掃除して磨き込んだり、という作業が行われるようです。
一般的に、本宅は田舎にあるので広く堂々としており、広大な敷地では乗馬やピクニック、釣り、狩猟などができます。
わたしは一度 チャッツワース・ハウス へ行ったことがあるのですが、子供のマラソン大会をやっていました。
ペンズハースト・プレイス では、中世の騎士の試合イベントをやっていたようです。
タウンハウスは通常、客人を長期間泊めることもないので、部屋数も本宅より少なくてすみます。
それほど裕福でない貴族は、シーズンのために一時的に家を借りたり、独身者であればホテルに泊まったりします。
リージェンシー時代の社交
シーズン(4月から8月くらい)になると、貴族は領地からロンドンへ出てきて、親交を深めたり、娘がいたら夫探しをしたり、あるいは妻探しをしたりします。
オールマックス(Almack's)という特別な社交場があり、
そこで開催されるパーティに参加するのは生粋の貴族階級で、上流の証。
バウチャー(入場券)が必要で、それを獲得するには、パトロネスと呼ばれる数人の貴婦人からなる特別な委員会の、推薦や審査を通らなければなりません。
リージェンシー・ロマンスでは、このオールマックスのバウチャーを手に入れることが、よく題材になります。
リージェンシー時代の女性のファッション
リージェンシー時代のファッションについては、こちらのサイトをどうぞ。
英語ですが、引用されているイラストだけでも雰囲気がばっちりわかりますよ!
(こちらもどうぞ)「高慢と偏見」 ジェーン・オースティン
イギリスのリージェンシー・ロマンスを読むうえで、ジェーン・オースティンは必読です!
…でも19世紀の本は、たとえ現代語訳でもちょっと読みにくいです。
わたしは英語版が無料だったので読みましたが、なんとか読んだ!という感じ。
なので、BBCのドラマのほうがとっつきやすいかもですね。内容はそんなに変わりません。
オープニング・テーマからステキ!リージェンシー時代に引き込まれます。
そしてコリン・ファースが若い!
※なお、原作にはコリン・ファースの「池のシーン」はありません (^^;
amazon prime 会員は0円で観られます。
でも私は好きすぎてDVDを買ってしまいました!